友人と共同で広告会社を経営している「僕」。そんな「僕」の前から、「あなたと一緒にいてももうどこにも行けないのよ」と言って、妻は出て行ってしまう。その後、「僕」は耳のモデルをしている女の子と知り合い、仲よくなる。
ある日、「僕」はPR誌のグラビア・ページに使った写真のことで、右翼の大物の秘書に脅迫をされる羽目に陥る。1カ月以内にその写真に写っている「星形の斑紋」のついた羊を探し出せというのだ。
この写真は行方不明の「鼠」から送られてきたものである。「僕」は耳のモデルの彼女に促され、2人は北海道へと羊の捜索旅行に出かける。1頭の羊をめぐる冒険のはじまりだ。宿泊先の「いるかホテル」で、二人は「羊博士」に出会う。
もと農林省のエリート官僚だったこの老人は、体内に羊が入り込み、「交霊」を体験して「羊つき」となった。しかしその後、羊は右翼の大物の体内に入り込み、博士は「羊抜け」となったのである。この博士から写真の場所を教えてもらった二人は、ホテルを去り、十二滝町へと向かう。探していた牧場にたどりつくと、そこにある別荘は「鼠」の父親のものであったことがわかる。
「僕」はその別荘で「羊男」と出会い、そしてついに闇の中で「鼠」と再会する。「僕」はすでに死んでいる「鼠」と羊の話をする。彼は「僕」が別荘にやってくる一週間前に首をつって死んだのだ。死ぬ直前に彼がしたことは時計のねじを巻くことだった。
「鼠」はその羊に支配されてしまう前にそれを呑み込み、そのまま自殺を図ったのだ。こうして羊をめぐる冒険旅行は終わりを迎える。任務を果たした「僕」がホテルに戻ると、耳のモデルの彼女は消えていた。
「生ある世界」に戻った「僕」は、それがたとえどんなに単調で平凡なものであろうとも、自分の世界として受け入れようとする。ジェイに会いに行った「僕」は、夕暮れの海岸で二時間泣いたあと、波の音を背中で聞きながらまたどこかに向かって歩き始める。
独特の比喩表現がますます冴えを見せている、野間文芸新人賞受賞したこの作品は、「風の歌を聴け」、「1973年のピンボール」とで、長編三部作をなしているが、ここでは俄然物語が動き始める。
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