2011年10月29日土曜日

ダンス・ダンス・ダンス

タイトルはビーチ・ボーイズの歌から取られている。『羊をめぐる冒険』の続編といえる長編である。

主人公の「僕」は34歳で離婚歴がある。PR雑誌のようなものに原稿を書いて生計を立てている。「僕」は自己の探求のために、札幌に旅をする。しかしそこにはもうあの「いるかホテル」はなかった。名前は「ドルフィン・ホテル」となり、それは近代的な高層ホテルに変身していたのだ。

「僕」はそのホテルに滞在しているあいだに、フロントの女性と知り合い、人生で失いかけていた精神的高揚が取り戻せるかもしれないという期待が膨らんでくる。彼女からホテルの暗闇の中での体験を聞かされた「僕」は何かを感じ取り、その場所に出かけていく。

そこで彼を待っていたのは、あの「羊男」であった。久しぶりに彼との再会を果たした「僕」は、「羊男」にいろんな話をする。「僕」はもう人を真剣に愛せなくなってしまい、もうどこにも行くことができないし、何を求めればいいのかもわからない、といったようなことを。

それに対して「羊男」は次のように説明する。「僕」は「いるかホテル」に含まれていて、すべてはここに始まり、すべてはここに終わる。「僕」はここにつながれている。「羊男」の役目は、「僕」が求め、手に入れたものを配電盤のようにつなげることだ。この場所は結び目なのだ。うまくいくかどうかはわからないが、とにかく「羊男」は「僕」のためにつなげる努力をしてくれる。

そして「僕」にできることは踊ること。何も考えずにただできるだけうまく踊ること。まさに、「ダンス・ダンス・ダンス」だ。こうして「僕」は、失われたものを再び取り戻そうと、東京からホノルルまで再生のための旅を続ける。
この間、「僕」にはストーリーの鍵となる様々な女性との出会いがある。13歳のユキという少女。そして彼女の母親のアメ。コールガールのメイ。かつて札幌で「僕」の前から姿を消したキキという女の子。

特にユキは、札幌で偶然に知り合い、東京まで連れて帰ることになるのだが、霊的な能力を持つこの少女は、物語の展開上、重要な役割を果たしている。ホノルルでキキを追って迷い込んだ場所で、「僕」は6つの白骨に出くわす。その後、「僕」の周囲で次々と死人が出る。「僕」が探し続けていたキキを殺したのは、「僕」の中学時代の友人で映画俳優の五反田君だとユキに言われ、「僕」は彼に真相を問いただす。その後、彼は車ごと海に飛び込んでしまう。

様々な喪失と絶望を乗り越えて、最後に「僕」は再び札幌へと向かう。ホテルで知り合ったユミヨシさんに会うためだ。彼女との交流の中で、「僕」は再び心の平和を回復していく。「ユミヨシさん、朝だ」という最後のせりふは、とてもさわやかで印象的な言葉だ。

過去の3部作が70年台を舞台にしていたのに対し、この作品ではそれが80年代に移行している。『ノルウェイの森』など、それまでの作品とは違い、主人公は最後に長いトンネルを抜けようやく1つの光を見たようだ。ここで、第1期村上春樹の世界は完結し、『TVピープル』を挟んで、第2期に突入する。

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